ギルド『アルファ』探索日誌

主に世界樹の迷宮シリーズのプレイ記録。

白蛇ノ月の物語

6層ボス撃破直後のアイカ


「アイカ!」
フィオの呼び声で意識が浮上した。
夢と現の狭間で、目を閉じたまま耳を傾ける。
「大丈夫、寝てるだけだ。
 シアン、お前のマントちょっと貸せ」
「ああ、……倒したんだな」
「おう。もう、何もいないぜ。……よっと」
厚い布地が体にかかったのが分かる。
バルクはどうやってあたしの体を支えているんだろう?
意識がふわふわしていてよく分からない。
「それで、アイカはどうしたの?」
「あれを倒して気力が切れちまったらしい」
「あぁ、そういうことか……良かった」
「そんじゃ、早く戻ろうぜ。
 やっぱちゃんとしたとこで休ませたいからな」
気遣う声が、今までと違う響きを持っていることに気づく人はいない。
「そうね。皆も待っているだろうし、戻りましょう」
「バルク、お前も疲れてるなら代わるか?」
「ん?……いや、いい。
 こいつあれだけ食うのにめちゃめちゃ軽いしな」
そう言ってあたしの体を抱え直す。背負われてるんだ。
あたたかい、……気持ちいい。
「でもこれだけ人がいて、アイカが起きないなんて……」
「いや、起きてるぞ」
「え、…………えええええ?!」
あ、気づいてたんだ。でもこのままがいいなぁ。
「アイカ?起きてるの?」
「んー……起きてないですぅ」
「ここまで清々しい嘘も珍しいな」
どこか呆れたようなシアンの声に、からかうようなディアナの声が応える。
「本当に珍しいわ……バルク、一体何をしたの?」
「さあな」
あっさりと応えたバルクの声は、どこか笑いを含んでいて。
それはあたしにしか分からない。それが嬉しい。
「でも、こんなアイカは初めて見るよ……。
 アイカ、もしかして、怪我とか具合悪いとかある?」
「ないですぅ……ただ、」
ああ、やっぱりちゃんと話さないとダメかなぁ。
少しだけ目を開くと、フィオの心配そうな顔が移る。
……すごい、フィオちゃんより目線が高い。
「後でちゃんと話しますから」
そう言っていつもの笑顔を浮かべてみる。
するとみんな、とても驚いた顔をした。……あれ?
ちゃんと笑顔を作れてなかったかな?
ま、いっか。
そのまままた目を閉じて、バルクの広い背中に頬をすり寄せてみる。
「……なんだか、よく懐いた野良猫の仔、といった感じね」
「バルク、アイカには甘かったもんねー」
「何言ってんだ。俺は万人に甘いぞ」
「……ようやく自覚したのか」
みんなの声が遠くなり、急速に意識が沈んでいく。
聞こえる優しい声。伝わる暖かい体温。頬を撫でる誰かの指。
探し求めたものは、今ここにある。
そう確信しながら、あたしの意識は闇に溶けた。