ギルド『アルファ』探索日誌

主に世界樹の迷宮シリーズのプレイ記録。

タロットで22のお題(XIII. 死神)

XIII. 死神(喪失)

呆然とした面持ちで立ち去っていくアガタを、見ていることしかできなかった。
目の前で失われた命。助けられなかった人。
――あいつがいなくて良かった。
失くした片目を強く感じる。どうしようもない無力感。
――多分、あいつもこんな気持ちだったんだろうな。
そうだ、あの日は雨だった。むせ返るような湿気と草の臭いの中、一人倒れていた俺のところにあいつはやってきた。何を言うでもなく隣に座り込んだあいつに俺はなんと言ったのだったか。しばらく二人で雨に振られていた。あいつの考えはわからなかったが俺はいらいらしていた。いらいらして、不意に暴力的な衝動に突き動かされてあいつを押し倒した。あいつはじ、と俺を見ていた。なにかで切れたあいつの頬から赤い血が溢れて、それを俺もじ、と見ていた。どれくらいたったのか、雨じゃない雫があいつの顔にあたった。二滴、三滴と増えていくそれを見て、あいつは俺を抱きしめ、ごめん、とぽつりつぶやいた。それで俺は思い切り号泣したのだった。
ギリ、と奥歯を噛み締める。アガタはどうやって泣くのだろうか。
彼を抱きしめてやる手は既に失われたのに。
(二層中盤・ハロルド)