ギルド『アルファ』探索日誌

主に世界樹の迷宮シリーズのプレイ記録。

一周年&PV一万突破記念(5. その始まり、二日目)

わずか三ヶ月でアーモロードまでたどり着けたのは、
かなり運が良かったからだ。
海都へ向かった船は戻るまで、どんなに早くても半年以上かかり、
下手すると二度と戻ってこないこともある。
「どうする、早速冒険者ギルドに行く?」
「そうね……二度手間になるのも面倒だし、そうしましょう」
「しばらくは海ともお別れか……なんか妙な気分だぜ」
見納め、と思って港を眺めていると、
フィオの呆れた視線とエリンの冷たい視線が飛んでくる。
「なに言ってんだか」
「新規ギルドは船が貰えるって話じゃない。
……しみじみしてる余裕があるなら、これ持って」
「はいよ」
渡された荷物は意外にも軽く、わざわざこんなことで
気を遣うエリンはやっぱり優しいと改めて思う。
が、毎度の如く顔に出ていたらしく、エリンは無表情のまま速攻で
背を向けて歩き出し、盛大なため息をついたフィオと共にその後を追った。


「昨日発足したギルド?」
「ああ、見たところお前らは頭数が足りてねえし、
そのギルドも人員募集の掲示を出していった。
新人同士、上手くやれるんじゃねえか?」
ギルドを立ち上げたい、と言ったエリンにギルド長が持ち出したのは、
わずか一日の差で先に発足したギルドの話だった。
「……数が足りていないってのは、まあそうだなぁ」
「そうね……どの掲示かしら?」
「一番右端の新しいやつだ」
ギルド長が指したその羊皮紙は、他のものと比べてもやけにすっきりして見えた。
「『ギルド名『アルファ』、委細面談』……え、これだけ?」
驚いた声をあげるフィオに、エリンはなにか考える様子だ。
「ふうん……話を聞いてみてもいいわね」
「めずらしいな」
エリンは人嫌い、とまでは言わないが、極力人と関わることを避ける。
「人数が足りてないのは事実だもの。合わないと思ったら、
今度こそ新しくギルドを立ち上げればいいだけだし」
そう言ってエリンはギルド長を振り返った。
「話を聞きに行ってみるわ。どこへ行けばいいのかしら?」
「ああ、それなら……」
「あたしが案内しますぅ」
突然現れた声に入り口を見ると、いつのまにか不思議な格好の少女が立っていた。
「おう、嬢ちゃんか。無事だったか」
「はい、おかげさまでミッションも報告できましたし」
その言葉にギルド長が目を見開く。
「もう最初のミッションをクリアしたのか。
あんまり無理しすぎんじゃねえぞ」
「そうですねぇ……。さすがに昨日はちょっと
はしゃぎすぎちゃったかもしれないですぅ……」
これからはもう少し慎重にいきますぅ、と言った少女は、
笑顔でこちらに近寄ってきた。
「あたしはギルド『アルファ』のアイカですぅ。
発足日は昨日でメンバーは四人、大絶賛ギルドメンバー募集中ですぅ!」
「……エリンよ」
やけにテンションの高い、アイカと名乗った
少女の方へ一歩前に出たエリンが口を開く。
「あなたが『アルファ』のリーダー?」
「ええっ!?いえいえ、違いますぅ」
大仰にアイカは手を振った。どうやら彼女が後衛、残り三人が前衛で、
探索後に一番体力が残っていた彼女が様子を見に来たらしい。
ギルド長にぺこり、と頭を下げたアイカは「行きましょうか?」と笑った。


「今日の探索は切り上げで、他のみんなは宿で休憩中ですぅ」
道すがら、アイカは手早く『アルファ』というギルドについて説明した。
彼女以外の三人は俺たちと同様一緒にアーモロードにきたこと、
最低でも十人以上メンバーを集めようとしていること。
「アイカもその三人とは昨日会ったばかりってこと?」
「はい」
どうもアイカの通常状態は笑顔らしい。
エリンの鉄壁の無表情にも怯まずにこにこしている。
「……参考までに聞きたいのだけど、あなたはどうして『アルファ』に?」
「んーと、勘、ですぅ」
「「「勘?」」」
俺とエリン、フィオの声がユニゾンした。
一瞬驚いたように振り向いたアイカは、それでも笑ってうなずいた。
「あたし、世界樹の中で探してるものがあるんですぅ。
それが、このギルドだったら見つけられるかもしれないって、勘ですぅ」
「……そう」
言葉少なに答えたエリンはやはり無表情だが、
――これは、結構乗り気なんじゃねーの?
そう思ってフィオを見ると、同じことを考えていたらしくうなずき返してきた。


シアンと名乗った『アルファ』のリーダーは簡潔に言った。
「このギルドの目的は『世界樹の踏破』だ。
具体的には、地図の完成はもちろん、モンスター、
埋もれている遺物、採集物など、その全てを知ることだ」
宿屋で俺たちを出迎えたのは、えらいこと美形なリーダーのシアンに
柔らかい雰囲気のサブリーダーのディアナ、
飄々とした様子のバルクの三人だった。
「俺個人の目的は……言ってしまえば『名誉』のためだ」
(エリンを除いて)顔を曇らせた俺たちに、シアンは少し苦笑してみせた。
「色々と理由があってな。だが、個人的な目的は違えど、
大前提としてギルドの目的には協力してもらわないとならないし、
それはもちろん俺にも適用される」
「そう……」
つぶやいたエリンが俺とフィオに視線で問う。
――どうかしら?
考えるまでもなくうなずく。俺の勘はこのギルドは信頼できると告げている。
フィオはと言えば、少しだけ悩む様子を見せてからうなずいた。
「……その前提に対して異論はないわ。
私たちを『アルファ』に入れてもらえないかしら?」
直球のエリンの問いかけに、これまた直球でシアンは答えた。
「わかった、これからよろしく頼む」
「ちょ、ちょっと待ってください」
俺が一瞬感じた疑問はフィオの口から発せられた。
「他の方はいいんですか?」
くす、とディアナが笑う。肩をすくめたのはバルクだ。
「どうなんだ、みんな?」
と聞くシアンも笑みを含んでいる。
「シアンが決めたことなら私は構いません」
「そもそもみなさんを連れてきたのはあたしですぅ」
「シアンの人を見る目は信頼できるからな」
「ということだそうだ。……よろしく、三人とも」
そう言いながら差し出された手をとりつつ、
これから確かになにかが始まるのだ、と思った。