ギルド『アルファ』探索日誌

主に世界樹の迷宮シリーズのプレイ記録。

一周年&PV一万突破記念(3. その始まり、一日目)


降り注ぐ日差し。眩くきらめく海。
年初めの所為もあってか、大勢の人々が行き来する港街。
その人混みを避け、私たちは広場の端にたたずんでいた。
「ここが……アーモロードなんだな」
「ええ、すごい活気ですね。……バルクは大丈夫でしょうか」
「大丈夫だろう。あいつなら」
やれやれ、といった様子でシアンは首を振る。
なにか起きたとき、面倒だなんだと言いつつも真っ先に首を突っ込み、
『大丈夫』にしてしまうバルクの性格には、自分も彼も助けられている。
と同時に、関わらずに済んだはずの面倒事にも巻き込まれるため、
そこは痛し痒しといったところだ。
思わず苦笑をもらしたところで、道を訊きに行っていたバルクが戻ってきた。
「戻ったぜ……って、なんだ二人とも」
「なんでもない。それよりも場所は聞けたのか?」
「ああ、すぐそこらしい」
「聞いていた通りね。じゃあ、早速……」
行きましょう、と言いかけた言葉は、路地から飛び出してきた
少女の存在によって掻き消された。顔面蒼白で息を切らし、
目に涙を浮かべた少女に、広場にいた誰よりも素早くバルクが駆け寄る。
「どうしたんだ」
その言葉でこちらを認識した少女は、喘ぐように言葉を絞り出す。
「女の子……わたしの、代わりに……助けて、くださ……」
「相手は何人だ」
「男が……三人」
「場所は」
「よく、わからない……けど、そんなに、遠くない」
「わかった」
畳み掛けるようにして必要な情報だけ聞き出したバルクは、
私たちに「頼む」とだけ言って走り出してしまった。



ひたすらに人の気配を探して走る。
表通りとは真逆に人気のない裏路地は静まり返っていて、
却って気配を逃さずにすみそうだ。
「――っ!」
突然飛び出した人影の手に光るものを見て、とっさに剣を引き抜く。
ガキン、と重く響く金属音をさせ、
ぶつかってきた小柄な体躯はその反動のままに後ろへ飛び退った。
危なげなく着地したその姿は、
――子供じゃないか。
不思議な服装に構えられた短剣、攻撃される瞬間まで
気配に気づけなかったことも踏まえて考えると、
「シノビ、か」
そう言うと、無表情で短剣を構えていた子供――少女の雰囲気が少しだけ緩んだ。
「あなたは悪い人ですか?」
――なんだそりゃ。
剣を構えて対峙しているというのに、思わずぽかんとしてしまう。
おそらくは相当変な顔をしてしまったのだろう、
目の前の少女は構えを解きつつ笑い出した。
そのまま腰の鞘に短剣を収めたのを見て、自分もまた剣をしまう。
「いきなり攻撃してごめんなさい。さっきの悪い人の仲間かと思っちゃいまして」
その言葉に、先ほど助けてくれと言われた女の子がこの子供だろうと検討をつける。
「もしかして、さっき女の子を助けなかったか?」
「……そっか、あの子、助けを呼んでくれたんですねぇ……」
独り言のようにつぶやいて、俺を見上げる。
「あなたは、助けにきてくれたんですか?」
「あー、まあ、そうだ。必要なかったみたいだけどな」
「……いえ、ありがとうございますぅ」
その微笑みに何かを思い出しそうになって、とっさに意識を切り替える。
「んじゃ、とりあえず人が多いとこに出ようぜ。俺の仲間も待ってるだろうし」
「仲間、ですか?」
「ああ。……俺はバルク、お前は?」
「……アイカ、ですぅ」



――ラッキーかもしれない。
バルクと名乗った男性に従って歩きながら考える。
一瞬だけ合わせた剣から、彼がかなりの
場数を踏んでいるということはすぐにわかった。
これから世界樹に挑もうとしている自分にとっては、
強い人と知り合いになれるのは願ってもない話だ。
「あの、バルクさんはどこかのギルドに所属してるんですか?」
「いや、今日アーモロードに着いたばかりだ」
――これはますますラッキーかもしれない。
「偶然ですねぇ、あたしも昨日着いたばっかりなんですぅ」
「……それで、男三人を相手取ったのか?」
どこか呆れているような、怒っているような声のバルクに首を振る。
「まさか、まともにやり合ったら勝ち目ないですよぅ。
一人を足止めした隙に走って逃げただけですぅ」
「それでも、……危ないだろ」
そのセリフに、思わずバルクを凝視してしまう。
「バルクさん、お人好しって言われませんか?」
「……俺はそんなに優しい人間じゃない」
ごく普通に返された言葉からは何の表情も読み取れなかったが、
――これは、『嘘つき』に関しては私の方が上手かな。
そう思ったことはおくびにも出さず、バルクに笑いかけた。
「そうですかぁ……。でも、あたしは嬉しかったですぅ」
「……そっか、そりゃ良かった」



所属ギルドの用事で港まで来たところ、がらの悪い男たちに捕まってしまい、
路地裏に連れ込まれたところに突然現れた女の子が身代わりになって助けてくれた。
落ちつかせて聞きだした少女の話を総合するとそういうことだった。
戻るまで待つ、と言う少女をそのままにするわけにもいかず、
ディアナと荷物をその場に残してバルクを追った。
最大限の注意を払いながら路地を進んでいると、ほどなくして二人の姿が映った。
よ、と手を挙げたバルクと、先ほどの少女より
一回りは小さく見える、見慣れない服装の女の子。
「アイカ、こいつが俺の仲間の一人でシアンだ。
シアン、こっちはアイカだ。……ディアナはどうした?」
バルクのさっくりとした紹介に合わせて、
イカと紹介された少女はぺこりと頭を下げた。
その少女に軽くうなずいてみせ、バルクの質問に答える。
「先ほどの少女と荷物を見てもらってる。そちらは無事だったか」
「ああ、っつっても、俺が助けたわけじゃないけどな」
ではどういうことだと見やると、彼女は笑いながら足を叩いてみせた。
「足にはちょっと自信がありますぅ」
「それもすごい話だよな。昨日着いたばかりなんだろ?
土地勘もない場所だってのに、よく振り切れたな」
「あたしはシノビですから、そういうのは得意なんですぅ」
――シノビ、か。面白いな。
「アイカはもうギルドに所属してるのか?」
「いえ、まだですぅ」
「そうか……俺たちは今日ここに着いたばかりだが、新しくギルドを作るつもりだ。
君さえ良ければ、俺たちのギルドに入らないか?」
「え、いいんですか!?」
良好なアイカの反応にバルクは大げさに肩をすくめた。
「ま、これもなんかの縁だろうな。シアンがいいっつーなら、俺は構わないぜ」
「ディアナもおそらく大丈夫だろう。……では、これからよろしくな、アイカ
「……はい、よろしくお願いしますぅ!」