ギルド『アルファ』探索日誌

主に世界樹の迷宮シリーズのプレイ記録。

笛鼠ノ月の物語・下旬

サブクラスについて。ジョセフ視点。


ミーティングの後に、やっと一人になった彼女をつかまえることに成功した。
大体は誰かと一緒にいたり、あるいはどこにもいなかったりするため、
話しかけるタイミングがちょっと難しい。
「アイカさん、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「単刀直入に言うと、サブクラスでシノビのスキルを学びたいんです」
さくっと本題を出すと、いつも笑顔の大きい目が一瞬さらに大きくなった。
「そういうことでしたら喜んで」
「助かります」
多分断られることはないだろう、と踏んではいたが、
了承の返事は素直に嬉しい。
「これは単純に疑問なんですけど、どうしてシノビなんですか?」
「……こんな僕でもパーティーに貢献できるような
スキルがあるかな、と思ったんですよ。今のままだと、
戦闘中、僕はみんなの荷物にしかなりませんから」
きっぱり言い切った僕の言葉に、アイカの笑顔は
呆れ半分、苦笑半分にシフトした。
「……随分はっきり言っちゃいますねぇ」
「事実ですから。……別に僕は、自分のことを役立たずとか
思ってる訳じゃありませんよ?」
採集中に珍しいアイテムを見つけたときの達成感。
魔物に不意打ちを食らって自分が、
あるいは誰かが倒れてしまったときの無力感。
……どちらも本当だ。
内心を察したのか優しく微笑みながら彼女は応える。
「それならいいんですぅ。実際、ジョセフ君が
うちに来てくれて本っ当ーに助かってるんですよ?」
怪訝な表情になってしまった僕に対し、ぴん、と人差し指を立て、
イカはどうやら解説モードに移行したようだ。
「このギルドの収入は主に、素材を売って得ていますよね?
素材は大別して魔物から得るものと、採集で得るものがありますぅ」
その言葉で、なにを言いたいのかは大体わかった。
「支出は主に、探索時に必要な装備やアイテム、
あとは宿代ですねぇ。……もういいですか?」
うってかわって、ニヤリ、としか形容できない
笑みを浮かべたアイカに脱力してしまう。
さっきみたいに静かに微笑んでいれば騙される男も多いだろうに。
……その程度で騙されるような男には、
イカは見向きもしないであろうことはさておき。
全く関係のない方向に飛んでしまった思考をやや強引に戻す。
「……ええ、ええ。縁の下の力持ちとはまさに僕のことですよ」
「で、その力持ちさんにうってつけのスキルなんですが」
間髪入れずに相槌が入る。
「厳密には1つのスキルではなく、スキル群、ですねぇ。
使い物になるまで時間がかかって、使いどころも難しいですけど、」
もうアイカは笑っていなかった。それは戦闘中に見せる表情に近い。
「切迫した状況を打開する切り札にもなり得るスキルですよ」
「……アイカさんは、そのスキルは……?」
「できればあたしも実践で使いたいんですけど、
今のあたしの役割を考えると、そんな余裕はないんですぅ」
それもそうか、と頷く。
今の彼女の役割は、最速行動によるアイテム支援と
連発可能な状態異常付き攻撃によるサブアタッカーだ。
時には分身しても間に合わないくらいに手数が必要になる関係上、
これ以上の役割を兼任するのは難しい、ということか。
「わかりました。そのスキルを教えてください」
「勧めといてなんなんですが、中身も聞かずに決めちゃっていいんですか?」
「アイカさんが言うなら間違いないかな、と」
「……そう、ですか」
やや間を空けての言葉は、どこか困惑しているようで、
普段があの振る舞いなだけに、その姿は幼い子供のようにも見える。
が、一瞬後にはその雰囲気は掻き消え、アイカはまたニヤリと笑んだ。
「じゃあ、これからばっしばししごきますからねぇ〜。
あたしは厳しいですよぉ?」
「お手柔らかにお願いしますね」
苦笑いしつつも、珍しい物を見た、と思った。
彼女の表情は、種類の違いはあれど9割方『笑顔』だ。
誰が相手でも変わらず、ーーー笑顔で人を踏み込ませない。
自分もそうだからよくわかる。
そしてだからこそ、さきほど見せた笑顔以外の表情は、
自分を仲間として認めてくれているということを物語っているようで。
ーーーこういうのは、悪くないな。


そしてこの決断が、数ヶ月後に起きた『番の鳥』事件を
たった1人で解決するという珍事に繋がったわけだが、それはまた別のお話。